ブリードの拘り
ブリードの拘り その1(種親)
種親については、産地や採集者のハッキリしたワイルド個体からの累代が理想だと考えています。
絶滅危惧種であるオオクワガタであるからこそ、顔の見える採集者による採集履歴のハッキリした個体を飼育したいと思うようになりました。
食品の世界でいえば、”トレーサビリティ”どのような産地でどんな採集をされた個体なのか知っておきたいという強い欲求に掻き立てられました。
私は、幸運にも日本全国を精力的に飛び歩く信頼のおける採集家の方と何人か知り合いになることができました。
この世界、”信用”が命だと思います。ごまかそうと思えばいくらでも偽装は可能だと思います。そんな状況の中では信頼できる方と取引したいと思う気持ちは皆同じではないでしょうか。
そして、以外と見落とされがちなことがオオクワッチの採集活動がどんなに大変な活動なのかということ。
私は、ブリーダであり、採集家ではありません(あっ、もちろん普通種は採集しますが)。でも、山梨県の韮崎を中心にオオクワッチの故郷へは毎シーズン足を運んでいます。あの山々の中で足を棒のようにしながら藪こぎをしながら何十回もアタックして採集されたワイルド個体は採集家の方々の血と汗と涙の結晶だと思います。
オオクワッチブリーダーの端くれとしてそのような採集者の方々の苦労を十分理解した上で今後も大切に飼育していきたいと考えています。
ブリードの拘り その2(国産種)
私は国産のクワッチしかブリードしていません。
理由は、簡単で日本人であるということと、外来生物である海外のクワッチが日本で広まってしまうことが嫌だから。子供の時にアメリカザリガニが日本にはかつていなかった種だと聞いた時の衝撃は忘れられません。どんなに注意していても事故は起こるもので海外のクワッチが逃げ出さないとは限りません。
それと、高校野球と同じ理由!?で四季や自然環境の変化に富んだ大好きな日本の都道府県との関係に興味があるから。
採集家の方が、想像を絶する苦労の末に採集した個体の故郷がどんな地域でどのような歴史があるのかを調べてみたいという衝動に駆られるのです。
たとえば、我が家の看板血統で美形コンにも入賞した”あこがれの神埼”の故郷である佐賀県神埼市。ここには、吉野ヶ里遺跡という、幻の邪馬台国の候補の1つでもある弥生時代の遺跡があります。当時の人が、我が家のオオクワッチのご先祖様を採集していたかどうかは定かではありませんが、ロマンを感じてしまいます。
クワッチのブリーダーという趣味の楽しみ方は、単に大きさやカタチを切磋琢磨するだけでなく、産地別にコレクションしてその土地の縁の歴史や文化を学ぶ楽しみもあるのです。
ブリーダーとして国産の産地に拘り、その土地で信頼できる採集家の方が採集した確かなラベル(日時、場所、樹種)を持った血統を大切にしていきたいと考えています。
正直、なかなか維持していくことは大変なんですけどね。
ブリードの拘り その3(個体管理)
クワッチのブリードを始めた頃、諸先輩から個体を譲っていただいたり、見せていただいたりしました。みなさん、独自の管理方法で個体を管理されており、”なるほどね!”と関心する方もいれば、”かなりいい加減だな”という方まで様々でした。
個体を受け取る立場としては、たくさん羽化してきた個体について個別の識別名をキッチリつけられた個体が欲しいとお客の立場では考えます。
また、個々の個体の母子手帳といいますか、成長の記録(孵化~初回交換~二回目交換~蛹化~羽化の日時や体重、頭幅、使用した菌糸ビン)をキチンとつけられた個体が欲しいと感じていました。
ブリーダの方によっては、Excelで管理票をつくり、個体別に手書きで管理されている方も見受けられましたが、そのラベルのついた個体を見たらあまりスマートではない。というか、私自身がお恥ずかしながら字を書くことがあまり得意ではないので嫌だなっと(笑)
そこで、見つけたのがクワガタ管理ソフトです。
クワガタ管理ソフト
なかくわさんが、無償で配布している管理ソフトなのですがなかなか良く出来ています。成虫や幼虫、小遣い帳の管理はもちろん、様々なラベルの印刷ができるのミソです。私は、なかクワさんからのリクエストもあり、印刷面で要望を出させて頂き採用していただきました。サポートOSの問題で今後は少々心配です。
30面ラベル印刷例
成虫管理、幼虫管理用のコンパクトにまとまったラベルです。エーワンの再剥離タイプの用紙に対応していますので、ビンの交換時にも続けてしようすることができます。私は主に幼虫管理に使用しています。
10面ラベル印刷例
成虫管理用のラベルです。少し厚めの色紙に印刷しラミネート加工してシリアルカードとして利用しています。
この管理ソフトを活用し始めたことで私のブリードする個体のすべての履歴を管理し、追跡できるようになりました。
つまり、具体的にどういうことかと言うと、例えば佐賀県の神埼産はこれまで1,000頭以上の個体を飼育し、美形コンテストを受賞した個体のルーツとなるkanW554300000000-001F1は、2000年6月19日に樹液採集されたWILD♂と2000年11月25日に材割採集されたWILD♀のペアから誕生したといった感じです。
これは、私が余品としてお譲りした個体についてもすべて追跡可能なことを示しています。
なかクワさんのクワガタ管理ソフトは、無償のフリーソフトなのですが、私のブリードライフには欠かせないデータベースとなっています。
ブリードの拘り その4(成虫/発送管理)
ご購入いただいたお客様には無料で飼育サポートをさせていただいています。
成虫管理
個体を入れる容器は、菌糸ビンのリサイクルです。多数の個体を効率よく、整理整頓しながら管理するには、実は初令800ccのプラ容器を綺麗に洗浄して再使用しています。この容器は、日常的な成虫管理だけでなく個体の発送管理にも使用しています。こんな狭い所に!と思いがちですが、大きいケースに入れるとそれだけ無駄な動きにが増えて寿命を縮めかねません。管理マットは、コバエの発生を防ぎ、清潔な針葉樹管理マットを使用しています。
これで真夏の飼育から真冬の越冬管理までOKです。真冬には若干お布団の針葉樹管理マットを増やしますが(笑)
♂の管理用
16gワイドゼリー(エサホルダーつき)を入れます。発送管理
ブリーダ初期にオークションなどで生体を購入した際、送られてきた梱包に失望したことが何度かあります。届いた箱が、一度利用されたダンボール箱であったり、個体を入れたケースが使い古しのものであったり...エコの時代ではありますが事前期待を高めて到着を待つ客の心境からすると水を差すような梱包だと思います。
勿論、エコな時代ですのでリサイクルは大切ですが、クワッチのブリーダからしてみれば宝物の到着を待つようなものですのでそれなりの演出があって良いと思います。そんな客の立場の原体験から、梱包にも拘りを持って取り組んできました。とはいってもコストを掛けているわけではありません。
まず、通常ペアでお送りする場合には先程の800ccの菌糸ビンの容器で発送します。つまり日常生活している空間そのものです。
♀の発送用ケース
主に16gゼリ(乳酸パワーゼリー)を入れます。送付する個体数が多い場合には、ダイソーで販売しているタッパウエアと小物入れを使用します。下記の写真で上側が♂用、下側が♀用です。通気用の穴を開け、力の強い♀には,セロテープでふたを合わせた上に粘着テープで固定するなど1頭1頭,丁寧かつ細心の心配りのもとに梱包しています。
また、個体にはすべて先日ご紹介したクワガタ管理ソフトで作成し、ラミネート加工した飼育記録カードを全個体にお付けしています。ダンボールのフタを開けた時にこのカードが一番最初に目に飛び込んでくるように配置します。
そして外装となるダンボール。これも100円ショップで探しました。ちょうど、800CCのプラ容器が2つ入る無地のダンボールでコンパクトなものを発見し、愛用しておりましたが、最近原材料の関係で欠番となってしまいました。現在は、ゆうパックのケースで代用しています。ペアを搬送する場合のイメージは以下のようなイメージです。
個体についての評価はもちろんのこと、個体の発送管理について評価をいただだくことが多いです。これもお客様の立場であったブリーダ初期の経験を活かしているから。
「オオクワガタにも優しく、かつ輸送事故を最大限防ぐこと」を両立させた配送は、柴崎様が初めてです(当方、昆虫やアクア用品の通販やオークションをしばしば利用しておりますが)。
これは、あるお客様からの感謝のコメントです。アイデア次第で日常品を組み合わせることで専門業者に負けない発送管理が可能になると考えています。これに満足せず、これからもよりよい方法を工夫していきたいと思います。
ブリードの拘り その5(販売後のサポート)
ブリーダーたるもの大切に育ててきた個体を余品としてお客様にお譲りした場合、これでお終いというわけにはいかないと思います。実はこれも私が初心者の時に感じたことなのですが、不安な気持ちでブリードを開始して、いろんなことを聞きたくなるもの。
”ペアリングはどのくらいの期間一緒にしておけば良いの”
”産卵木にカビみたいなものが出てきたけど大丈夫?!”
”初回の菌糸ビンの交換はどのくらい茶色い部分が増えたら交換すればよい?”
BE-KUWAやネットにもいろいろ書いてあっても自分の状況に照らし合わせて個別に聞いてみたくなるものです。
しかし、顔も知らないインターネット越しの取引の相手に聞くことはちょっと勇気のいることかと思います。そこで始めたのが、アフターサービスの見える化として始めた”ブリード安心相談サービス”です。
このサービス、何てことはない今まで余品を販売後にメールで個別に問い合わせを受けていたことをオープンにしたもの。勿論、その内容はワンツウマンのやり取りですので他の方に知られることはありません。
私も初心者の頃にこの道の先輩たちのお世話になりました。その恩返しとしてクワッチの仲間の力になりたいという気持ちもありますが、やはり手塩にかけて育てた個体を末永く飼育して欲しいという気持ちも強いです。
(2013年9月1日)