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第十話 オオクワ工場

一匹、一匹ていねいにアイスクリームのプラスティックスプーンで入れて行きます。

今年もクワッチたちの季節となりました。
昨年、オオクワガタは、おとこの子とおんなの子が一匹ずつでしたが、今年は知らぬ間に10匹に増えています。
パパは、ヒマさえあれば水そうからおとこの子を出してながめていましたが、やがて、けっこんのセットといって毎週末にせっせと新しいクワッチたちをいっしょにさせはじめました。

「パパ、そんなにけっこんさせてどうするの?」

はなちゃんがたずねました。

「はなちゃん、新しく佐賀と福岡と山梨と福島と阿古谷のクワッチたちを手にいれたんだ。どんな子が産まれてくるか楽しみだと思わないかい?」

パパは、ちょっとこうふんぎみに答えます。

「ふーん???」

はなちゃんには、何がすごいのか全くわかりません。

やがて、"けっこん"したおんなの子たちはそれぞれ赤ちゃんを産むために太い木の入った水そうに入れられていきました。
赤ちゃんを産むためのセットが完了すると、パパはホームセンターに行って背の高さほどあるパイプの棚を買って来ました。
産まれて来る赤ちゃんのマンションだそうです。
やがてその棚は、くわがたショップで買って来たキノコのビンでいっぱいになりました。

「まるで倉庫のようだわ」

のぞきに来たママがあきれたように言いました。

7月も近くになると、だんだん蒸し暑い日が続くようになりました。
毎日、はなちゃんとパパは一緒におうちを出ます。最近、パパのかっこうが少しヘンです。

「パパ、会社に行くのにネクタイしないの?」

はなちゃんはたずねました。

「はなちゃん、パパの会社では、"クールビズ"っていってね。上着とネクタイをしなくてよくなったんだよ」

「クールビズ?」

「そのかわりに会社のエアコンは、28℃より下げられないんだ。地球温暖化を防ぐ為なんだよ」

「地球温暖化!」

はなちゃんは、テレビでやっているコマーシャルを思い出しました。
それと同時にクワガタ部屋のエアコンがずっと付きっぱなしになっていることが気になりました。

さて、いよいよたくさんセットした"産卵セット"を割り出す日が来ました!
はなちゃんとおにいちゃんは、パパからお願いされて割り出しのお手伝いです。
はなちゃんは、赤ちゃんが産まれるということですっかり看護婦さん気取りです。
オモチャの聴診器とエプロンを着けています。

パパは、クワガタ部屋を片付けて汚れないようにレジャーマットを引きました。
そしてパパがオオクワッチの赤ちゃんの割り出し係です。
はなちゃんは、ラベルを貼る係、おにいちゃんは、最後に棚へ並べる係です。

太い木からは、次から次に赤ちゃんが出てきます。
流れ作業で取り出した赤ちゃんをドライバーで開けた穴に一匹、一匹ていねいにアイスクリームのプラスティックスプーンで入れて行きます。
赤ちゃんのたんじょうびを書いたラベルを貼り、ふたをして棚に並べていきます。

「まるで工場みたい...」

はなちゃんが言いました。
学校の社会科見学で行ったパン工場での流れ作業を思い出したのです。
やがて棚のほとんどのビンに赤ちゃんが入りました。

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