第十六話 オオムラサキの里 後編
高速道路の韮崎インターをおりるとパパの目付きが変わってしまいました。
インターの目の前には、もう林があります。
パパとおにいちゃんは早速虫あみを持って駆け出して行きました。
ママとはなちゃんは、車で留守番です。
しばらくすると、おにいちゃんが、むしかごを掲げながら戻ってきました。
「はなちゃん、かぶちゃんのおんなの子だよ!」
おにいちゃんは自慢げに見せました。
そこにはあの愛らしい目をしたおんなの子のかぶちゃんがいました。
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今度は、先ほどより少し広めの林です。
今度は、はなちゃんとママも林に入って見ました。
林の中は思ったより、ひんやりとしていました。
さんさんとふりそそぐ夏の陽射しが薄暗い林のなかをところどころ照らします。
やわらかい落ち葉のじゅうたんをふみしめながら奥へ進んで行くとパパがそっといいました。
「オオムラサキだ!」
少し先の大きなくぬぎの木から蜜が流れていました。
そのまわりをいろいろな虫が飛び交うなかで、一匹の大きなちょうちょが真ん中に陣取っていました。
色は、鮮やかな紫色ではなく、少し灰色の紫でした。
はなちゃんは、想像していたイメージと違うので少しがっかりしました。
みんなで木をまあるく囲みながらしばらくじっと見ていました。
パパが言うには、このオオムラサキはおんなの子だそうです。
木の蜜の真ん中でながいまきストローのような口で堂々と蜜を吸っています。
カナブンが近づくと大きな体で威圧しながら追い払います。
「まるで女王さまだね」
とおにいちゃんが言いました。
やがてその女王さまはお腹がいっぱいになったのかひらひらと林の奥へ飛んでいってしまいました。
結局、その後も何か所か見てまわりましたが見つけられたのは数匹のかぶちゃんだけでした。
しばらくの間みんなで車の中で歌を歌いながらドライブが続きました。
そしてお昼ご飯の後に長坂町のオオムラサキセンターに到着しました。
くぬぎの木が立ち並ぶ公園のような施設の中を歩いて行きました。
するとちょうちょの羽の形をした大きな建物が見えてきました。
「あれがオオムラサキセンターだよ」
パパが言いました。
早速みんなで入ってみると、そこにはオオムラサキだけでなくかぶちゃんやクワちゃん、そして八ヶ岳に生きる動物についてわかりやすく解説してありました。
展示室を過ぎると、金網で囲まれた体育館ほどの広さの建物に入りました。
そこにはクヌギの木の林が広がりいたるところにちょうちょが飛び交っていました。
「きれい!」
思わず、はなちゃんが叫びました。
「ちょうちょの楽園だわ!」
ママも声を上げました。よくみると二種類のちょうちょがいることに気がつきました。
一つは林の中で見たのとおなじようなちょうちょ。
もう一つは、少し小さく、あざやかな紫色をしていました。
「このきれいなちょうちょがオオムラサキのおとこの子なんだよ」
パパがいいました。
「エー!おとこの子なの」
はなちゃんがびっくりした声でいいました。
どのおとこの子のちょうちょもおんなの子のちょうちょよりもちいさいちょうちょです。
しかし、おとこの子のちょうちょはとても鮮やかなムラサキ色をしていてきれいです。
「ちょうちょの世界では、おとこの子の方が小さいけどおしゃれなんだね!」
こんどは、おにいちゃんが不思議そうな顔をしていいました。
「パパもオオムラサキのおとこの子のようにもっときれいにしてくれたらいいのにねぇ~」
ママとはなちゃんと顔を見合わせながら言いました。
「パパは、きれいにするまえにヤセないとダメだよ!」
はなちゃんが、すかさず言うとみんなで大笑いしてしまいました。
自慢げに解説していたパパは、ちょっといじけてしまいました。