第十三話 目指せ玉川上水! 前編
ある日、パパが会社から帰って来るなり言いました。
「週末に玉川上水というところに行って見ない?」
「玉川上水?」
パパが言うには、東京の西の方で多摩川から別れた小さな川沿いにくぬぎ林が続いているらしく、住宅地にも関わらず、クワッチやかぶちゃんが採れるらしい。
「こんどの土曜日の夜に探検に行ってみない?」
「夜に行くの?...怖そう!」
「きっと、クワッチたちの自然での生態が観察できると思うよ」
翌日、おにいちゃんは学校でさっそく友達に自慢したそうです。
おとこの子の間ではムシキングや外国のクワッチが流行っているようです。
「パパ、週末の件だけど小学校のよっくんが一緒に行きたいっていうんだけど」
おにいちゃんがパパが帰って来るなり言いました。
「あのパラワンオオヒラタを持っている友達かい?」
「うん、日本のクワガタを採ってみたいんだってさ」
パラワンオオヒラタとは、フィリピンという南の国に住んでいる最大11センチにもなるヒラタクワガタだそうです。
最近では、クワガタショップにいくと大きなヘラクレスオオカブトや金色のオウゴンオニクワガタと一緒に売っているそうです。
はなちゃんは、夜に出掛けると言うことではじめは内心不安でしたがだんだん楽しみになってきました。
そして、いよいよ土曜日になりました。
虫刺されを防ぐために長袖のシャツに長ズボンで、首にはタオル姿で出発です。
途中でよっくんの家に寄りました。
よっくんは、小さなすいそうに自慢の外国のクワッチたちを何匹か入れて持って来ていました。
玉川上水までよっくんのママがくれたクッキーを頬張りながらみんなで歌を歌いながらドライブです。
やがて8時過ぎに玉川上水に到着しました。
真っ直ぐ斜めに住宅街の側をくぬぎ林が続いています。
側のパーキングに車を止めていよいよ探検開始です。
住宅街とはいえ、その一画だけはひんやり静まり返っています。
くぬぎの大木にそって土の歩道が続きます。
歩道の右側には冊があり、その先は暗闇になっています。
「お前の言ったとおり怖いところだね」
よっくんが静かに言いました。
おにいちゃんもちょっと緊張気味です。
はなちゃんは、パパと手をつないだままです。
みんなで冊ごしに下をのぞいて見ました。
谷のようになっており、どこからともなく水の流れる音が聞こえて来ます。
月の青白い光に照らされてかなり深いところに水が流れているのが確認できました。
「懐中電灯をつけようよ」
思わずおにいちゃんが言いました。
「つけちゃダメだよ」
パパがそっと答えました。
「どうしてダメなの?」
はなちゃんが聞き返しました。
「クワッチたちはライトが嫌いなんだよ」
やがて甘酸っぱい臭いがしてきました。